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大阪地方裁判所 昭和33年(行)3号 判決

原告 海外運送株式会社

被告 大阪国税局長

訴訟代理人 山田二郎 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、原告の昭和三〇年一月一一日より同年三月三一日までの事業年度分の所得金額二九一、四〇〇円、法人税額一二二、三八〇円、重加算税額三九、〇〇〇円とした大阪西税務署長の更正決定に対する原告の審査請求について、被告が昭和三二年一一月一一日附でした棄却決定はこれを取消す。原告の昭和三〇年四月一日より昭和三一年三月三一日までの事業年度分の所得金額一、〇四七、四〇〇円、法人税額三九三、九六〇円、重加算税額九四、〇〇〇円とした大阪西税務署長の更正決定に対する原告の審査請求について、被告が昭和三二年一一月一一日附でした棄却決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告は大阪西税務署長に対し、原告会社の収益事業について、(一)昭和三〇年五月三一日附で昭和三〇年一月一一日より同年三月三一日までの事業年度分(以下第一期分という)の所得金額を欠損金三一、八四四円と申告したが、その後未経過利息金一三六、六四八円のあることを発見し、差引所得金額は金一〇四、八〇四円となつたので、同年八月二九日附で所得金額一〇四、八〇〇円、法人税額四四、〇一〇円と修正申告し、(二)昭和三一年五月三一日附で昭和三〇年四月一日より昭和三一年三月三一日までの事業年度分(以下第二期分という)の所得金額四七一、三〇〇円、法人税額一六四、九五〇円と申告したところ、大阪西税務署長は、原告に対して、昭和三一年一二月二八日附で(一)第一期分の所得金額及び法人税額を、小泉保太郎名義を以て株式会社三和銀行淡路支店にある普通予金一八六、五九八円は原告会社の簿外所得であると認定した結果、所得金額二九一、四〇〇円、法人税額一二二、三八〇円、重加算税額三九、〇〇〇円と更正決定し、(二)第二期分の所得金額及び法人税額を、小泉保太郎名義を以て株式会社三和銀行淡路支店にある普通予金四七一、二六四円は原告会社の簿外所得であると認定し、かつ、経費処理した役員賞与金七二、〇〇〇円、滅価償却超過金三四、二六〇円を否認し、反対にその他の損害金として金一、四五〇円を認めた結果、所得金額一、〇四七、四〇〇円、法人税額三九三、九六〇円、重加算税額九四、〇〇〇円と更正決定したのであるが、原告は、大阪西税務署長のした右各更正決定に対し、これを不服として昭和三二年一月二八日再調査の請求をしたところ、その後三月内に再調査の決定がなかつたので、法人税法第三五条第三項第二号の規定によつて右期間最終日の同年四月二八日の経過とともに被告に対する審査の請求があつたものとみなされ、被告は審査の結果大阪西税務署長の各更正決定を相当と認めて、昭和三二年一一月一一日附で原告の各審査請求を棄却し、同棄却決定通知書は同月一二日原告に到達した。しかし、原告は、大阪西税務署長及び被告が、原告の第二期分の申告所得額について、経費処理した役員賞与金七二、〇〇〇円、滅価償却超過金三四、二六〇円を否認し、反対にその他の損失金として金一、四五〇円を認めた処分については、これを争うものではないが、小泉保太郎名義を以て株式会社三和銀行淡路支店にある普通予金は、原告会社の簿外所得でなく、訴外山田利一の個人資産であるから、これを原告会社の簿外所得と認定した大阪西税務署長の各更正決定は違法であり、この違法な決定を認容し、原告の各審査請求を棄却した被告の各審査決定は違法であるので、これが取消を求めるため本訴請求に及んだと述べ、

被告の簿外予金を原告会社が有する旨の主張に対し、小泉保太郎名義の三和銀行淡路支店に対する予金口座が存在し、右予金の原告会社の第一期分における予金債権が金一八六、五九八円、第二期分における予金債権が金四七一、二六四円であることは認めるが、右予金は訴外山田利一個人の予金であつて原告会社とはなんら関係はない。すなわち、原告会社は訴外山田利一が個人企業として営んでいたトラツク運送事業を会社組織に改めたものであるが、原告会社の取引銀行である日本勧業銀行天六支店は会社事業所から遠隔の地にあつて、急速に現金を引出すことが不可能であり、殊に銀行締切時間の切迫する場合には、現金の調達ができないため、原告会社振出の小切手を、右山田利一の妻山田美喜に依頼して同人の保管する山田利一所有の現金を以て現金化することを常としていたところ、山田美喜は右原告会社振出の小切手を前記小泉保太郎名義の予金口座に振込んだもので、右予金は山田利一個人の予金である。以下右予金の発生経過を詳述すると、原告会社の第一期分、第二期分における右預金の予金内容は、(1)昭和三〇年三月一七日入金額一八六、五九八円、(2)同年四月四日入金額一三一、四五〇円、(3)同年四月九日入金額九二、〇〇〇円、(4)同年五月四日入金額一三三、二一七円、(5)同年六月四日入金額一二三、二一二円、(6)同年九月一二日入金額五、八八〇円、(7)同年一一月一六日出金額三二〇、〇〇〇円、(8)昭和三一年二月一八日入金額三〇〇、〇〇〇円、(9)同年三月一二日入金額五、五〇五円であつて、原告会社の第一期分における右予金の予金債権は(1)の入金額一八六、五九八円であり、第二期分における右予金の予金債権は(2)乃至(6)(8)(9)の入金額合計七九一、二六四円から(7)の出金額三二〇、〇〇〇円を控除した金四七一、二六四円であるところ、(1)の入金額一八六、五九八円は、原告会社が昭和三〇年三月一四日右金額の小切手(No.5794)を山田美喜宛振出交付し同日同人より同額の現金を受取り給料その他の支払に充当し、山田美喜は右小切手を同月一七日右予金口座に振込んだものであり、(2)の入金額一三一、四五〇円は、原告会社が同年四月一日金一二九、六〇〇円の小切手(No.5798)を山田美喜宛振出交付し同日同人より同額の現金を受取り給料その他の支払に充当し、山田美喜は右小切手及び別に現金一、八五〇円合計一三一、四五〇円を同月四日右予金口座に振込んだものであり、(3)の入金額九二、〇〇〇円は、原告会社が同年四月八日右金額の小切手(No.4306)を山田美喜宛振出交付し同日同人より同額の現金を受取り旭タイヤー株式会社に支払い、山田美喜は右小切手を同月九日右予金口座に振込んだものであり、(4)の入金額一三三、二一七円は、原告会社が同年五月二日右金額の小切手(No.4315)を山田美喜宛振出交付し同日同人より同額の現金を受取り給料の支払に当て、山田美喜は右小切手を同月四日右予金口座に振込んだものであり、(5)の入金額一二三、二一二円は、原告会社が同年六月三日右金額の小切手(No.4334)を山田美喜宛振出交付し同日同人より同額の現金を受取り給料の支払に当て、山田美喜は右小切手を同月四日右予金口座に振込んだものであり、(6)の入金額五、八八〇円は、予金利息の記入により増額したものであり、(7)の出金額三二〇、〇〇〇円は、原告会社が大阪トヨダ自動車株式会社から中古ニツサンローリー車を購入するに当り、山田美喜がその代金を原告会社に貸付けるため金三〇〇、〇〇〇円と自己の所用費としての金二〇、〇〇〇円を引出したものであり、(3)の入金額三〇〇、〇〇〇円は、原告会社において前記(7)のとおり山田美喜より金三〇〇、〇〇〇円を借入れたが、帳簿上は原告会社の役員である海外文右衛門及び周防礼治金一五〇、〇〇〇円を借入れたことにして、昭和三〇年一一月二五日これを前記トヨダ自動車株式会社に支払つたので、昭和三一年二月一八日右借入金を返済するに当り、原告会社は前記両名から借入れた形式に副わしめるため各金一五〇、〇〇〇円宛合計金三〇〇、〇〇〇円の小切手(No.8167,No.8168)を振出し直接山田美喜に交付し、同日同人はこれを右予金口座に振込んだものであり、(9)の入金額五、五〇五円は、予金利息の記入により増額したものである。しかして、訴外山田利一が原告会社振出の小切手を現金化するについて相当多額の現金を保有している理由は、山田利一の個人営業時代からトラツク運転手の習癖として随時給料の前借を申込むもの、取引先の中には現金の支払を要求するものなどが相当あつて、常に現金を保有する必要があつたところ、会社組織となつた後においても経理の煩雑を避けるため原告会社自身において運転手の給料の前貸をすることは一切取止め、山田利一個人として立賛前貸をしていたためであつて、当時山田利一は相当の資金的余裕を有していたのである。すなわち、山田利一は、その個人営業時代の車輛を原告会社設立後原告会社に対し金三、五八〇、〇〇〇円で譲渡し、その代金として昭和三〇年一月一三日金二、三〇〇、〇〇〇円、同年同月一四日金一、二八〇、〇〇〇円を受取り、内金一、六〇〇、〇〇〇円はさきに原告会社設立の際払込資金としてスタンダード石油株式会社から借受けた債務の返済に当て、金八〇〇、〇〇〇円は堀、周防、海外等に対する旧債の返済に充当し、残額金一、一八〇、〇〇〇円については内金一、〇〇〇、〇〇〇円を日本勧業銀行天六支店に定期予金として予入れ、金一八〇、〇〇〇円を現金として所持していたのみならず、同年一月二九日から同年四月二〇日までの間個人営業時代の未収運賃金一、六三一、六七七円の回収をえて、内金五四八、八三一円は但人営業時代の未払金に充当し、残額一、〇八二、八四六円はその大部分を住友銀行天六支店に普通予金として予入れていたのである。

被告は原告会社に予金在高、手持現金が十分あつたのであるから、原告会社振出の小切手を山田美喜の手により現金化する必要は認められないと主張するが、原告会社が小切手を振出しこれを山田美喜の手により現金化したのは、前述のとおり、給料支払のためにする場合が多かつたのであるが、もともと経理知識に乏しい山田利一は、会社設立当初計理士より、給料の支払に当つては経理の明確を期するため一応小切手を切ることが好ましいとの勧告をうけたので、これを忠実に守り、給料相当額の小切手を一たん振出し手近かの山田美喜をしてこれを現金化せしめて、各従業員に対しそれぞれ支払をしたのである。このことは原告会社に在庫現金のある場合は一見まことに不要の処理であるかの如き感はあるが、一つには右計理士の勧告を忠実に守らうとしたことと、現金化するにしてもなんらの利息の支払等余分の負担を必要とせずに、しかも遠隔の取引銀行に出向く必要もなく、手近かにおいて調達しうるのみならず、かたがた在庫現金の余力が僅かになることは根が労働者上りの小企業者として経営上の心細さを感ずる気分が多分にあつたことは否みえないのである。

また、被告は小泉保太郎名義の本件銀行予金口座が原告会社設立後の昭和三〇年三月一七日開設している事情を捉えて、右予金が原告会社の簿外予金であると推定しているが、右予金口座はそもそも山田美喜が昭和二八年三月二五日開設したものであつて、これが一たん解約され昭和三〇年三月一七日開設されてはいるが、右の解約は山田美喜が意識的に予金契約を解除したというものではなく、予金全額を引出した結果銀行の取扱として解約の処理がなされたものにすぎないのであり、山田美喜自身の素人考えとしてはそうした法律上の意識を持つていなかつたのである。なお、予金全額を引出した事情は、原告会社設立の際に山田美喜、長男山田一の引受けた株式払込金三五〇、〇〇〇円の払込後で手許現金が心細くなり、運転手等に対する立替金の用意が必要であらうとの考えに基くものである。

要するに本件税務訴訟において決定的なことがらは、小泉保太郎名義の本件銀行予金が原告会社の隠し資産であるかどうかにあるのであつて、右銀行予金口座に振込まれた原告会社振出の小切手が原告会社の隠し資産を作るためのものであるといわんがためには、小切手に代る現金収入がないか、または、なんら正当の支払の事実がなくして単に小切手のみが振出された場合でなければならないところ、本件においては原告会社が小切手を振出すとともに、それに相当する現金の収入があり、また正当の支払がなされているのであるから、原告会社の隠し資産が生れる余地は全然ないのであると述べた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁及び主張として、原告主張事実中、小泉保太郎名義を以て株式会社三和銀行淡路支店にある普通予金口座が訴外山田利一個人の資産であつて、大阪西税務署長のなした各更正決定及び被告のなした各審査決定の違法であるとの点を除くその他の事実はすべて認めるが、被告のなした各審査決定は次の理由によるものであつて何ら違法はない。すなわち、

実地調査の結果、原告会社は小泉保太郎名義を以て株引会社三和銀行淡路支店に普通予金口座を有し、第一期分には金一八六、五九八円の予金債権を、第二期分には金四七一、二六四円の予金債権を有することが判明したが、右予金は小泉保太郎という架空名義が用いられていること、原告会社が設立された直後である昭和三〇年三月一七日に開設されていること、予金の内容が予金利息及び現金一、八五〇円の入金を除いてすべて原告会社振出の小切手の入金されたものであること、大阪西税務署長及び被告の調査に際し、原告会社が本件予金の資金発生の経過に対する再三再四の質問にも明確な回答をせず、被告がこれを調査しようとして関係資料の提出を求めたがこれに応じなかつたこと、右調査の際、原告会社が本件予金は山田美喜の個人資産であり、山田美喜の手持現金を原告会社に一時貸付をなし、その時交換に原告会社より受取つた小切手を本件予金口座に入金したと説明したが、山田美喜は家庭の主婦でそのような予金の発生する収入は全く考えられず、原告会社にも右説明に副う記帳の事実が些かもなかつたこと、原告会社の金銭出納帳(甲三号証)、銀行勘定帳(甲第二号証)の対照検討からすると本件予金が原告会社のものとして使用し、運用せられていること等よりすれば、原告会社がその支払を会社手持の現金(簿外所得)でまかない、その支払に見合うべく後日山田美喜宛に小切手を振出し、山田美喜において右小切手を架空名義人の本件銀行予金口座に入金したもので、原告会社の簿外所得を隠ぺい仮装したものであることが明らかであつて、従つて、大阪西税務署長が原告会社の第一期分の申告所得金額一〇四、八〇〇円に本件銀行予金の第一期分に相当する予金債権金一八六、五九八円を加算して原告会社の第一期分の所得金額を金二九一、四〇〇円と更正決定し、原告会社の第二期分の申告所得金額四七一、三〇〇円に本件銀行予金の第二期分に相当する予金債権金四七一、二六四円を加算し、経費処理した役員賞与金七二、〇〇〇円、滅価償却超過金三四、二六〇円を否認して加算し、反対に損失金として法人税金一、四五〇円を認めて減算して原告会社の第二期分の所得金額を金一、〇四七、四〇〇円と更正決定したのは違法であり、被告がこれを認容して原告会社の第一期分、第二期分の各審査請求を棄却した各決定にはなんらの違法はない。

原告は原告会社の取引銀行が遠隔の地にあつて急速に現金を引出すことが不可能であつたので、従業員の給料の支払の必要が生じたときなどには、訴外山田美喜を通じて山田利一に原告会社振出の小切手を現金化してもらつた旨主張するが、原告会社の銀行勘定帳(甲第二号証)、金銭出納帳(甲第三号証)によれば原告会社は常に予金在高、手持現金が十分にあつたのであるから、原告会社の小切手を現金化してもらう必要は毫もなく、原告会社の総勘定元帳(甲第六号証)の借入金額には借入金の金額の少額なもの、期間の短いものでも記帳されているのに、原告の主張することの片鱗すらも記帳されておらず、給料の支払のためには正当な原告会社名義の予金から現金を引き出し正当に記帳した上で支給すればよいのであつて、その時間的余裕も十分あつた筈であるから、原告の右主張は到底首肯しがたい。

また、原告は原告会社振出の小切手を訴外山田美喜に現金化してもらいこれを給料等の支払に充当したと主張するが、その支払科目がいずれも未払金科目となつていること、右未払金の内容が前月分の給料の支払であることによりすれば、その未払金とは誰かがこれを代払いし、その代払金を返済しているものと理解するほかなく、代払による借入金であれば原告会社の借入金元帳にその旨の記帳がなさるべきところ、その記帳がないので、原告会社の手持現金(簿外所得)からその支払がなされ、後日その支払に釣り合うように小切手が振出され、簿外所得を隠ぺい仮装したものというべきであると述べた。

(証拠省略)

理由

原告主張事実中、小泉保太郎名義を以て株式会社三和銀行淡路支店にある普通予金口座が訴外山田利一個人の資産であつて、大阪西税務署長のなした各更正決定及び被告のなした各審査決定の違法であるとの点を除くその他の事実はすべて当事者間に争がない。

被告は小泉保太郎名義の本件銀行予金の第一期分の予金債権金一八六、五九八円、第二期分の予金債権金四七一、二六四円はいずれも原告会社の簿外所得を隠ぺい仮装したものであると主張し、原告は右主張事実を否認し、右は訴外山田利一の個人資産であると主張するので判断する。

小泉保太郎名義の三和銀行淡路支店に対する予金口座が存在し、右予金の原告会社の第一期分における予金債権が金一八六、五九八円、第二期分における予金債権が金四七一、二六四円であることは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一号証乃至第七号証、証人山田利一(第一回)、同山田美喜、同木下尚敏(第一回、第二回)の各証言によれば、訴外山田利一は昭和九年頃から個人企業として運送業を営んでいたところ、これを株式会社組織に改め昭和三〇年一月一一日原告会社を設立したものであるが、右山田利一の妻山田美喜はこれよりさき昭和二八年三月二五日小泉保太郎なる加空名義を以て株式会社三和銀行淡路支店に普通予金口座を開設し、原告会社設立の前日これを解約したが、原告会社設立の直後である昭和三〇年三月一七日再び小泉保太郎名義の普通予金口座が右銀行に開設せられていること、被告の協議団本部の協議官である木下尚敏は原告会社の第一期分、第二期分の法人税に関する審査請求について調査するに当り、原告会社に対し昭和三〇年三月一七日開設された小泉保太郎名義の本件銀行予金について説明を求めたところ、原告会社の担当計理士である平野某は右予金は山田美喜の個人資産であつて原告会社提出の小切手を入金したものであると説明したが、原告会社備え付けの帳簿には右の原告会社振出の小切手のうちには日本勧業銀行天六支店において現金化されこれが原告会社に入金され給料その他に支払われている旨記帳されているものがあるので、さらにこの点について説明を求めたところ、個人の立替払であると説明するのみで具体的な説明に応ずるところがなかつたこと、原告会社の第一期分、第二期分における小泉保太郎名義の本件銀行予金の内容は(1)昭和三〇年三月一七日入金額一八六、五九八円、(2)同年四月四日入金額一三一、四五〇円、(3)同年四月九日入金額九二、〇〇〇円、(4)同年五月四日入金額一三三、二一七円、(5)同年六月四日入金額一二三、二一二円、(6)同年九月一二日入金額五、八八〇円、(7)同年一一月一六日出金額三二〇、〇〇〇円、(8)昭和三一年二月一八日入金額三〇〇、〇〇〇円、(9)同年三月一二日入金額五、五〇五円であつて、原告会社の第一期分における右予金の予金債権は(1)の入金額一八六、五九八円であり、第二期分における右予金の予金債権は(2)乃至(6)(8)(9)の入金額の合計七九一、二六四円から(7)の出金額三二〇、〇〇〇円を控除した金四七一、二六四円であるところ、(1)の入金額一八六、五九八円は原告会社が昭和三〇年三月一四日振出した同額の小切手(No.5794)が入金されたものであるが、原告会社備え付けの銀行勘定帳(甲第二号証)、金銭出納帳(甲第三号証)には右小切手が同日日本勧業銀行天六支店で現金化され同日原告会社に入金された旨記帳され、さらに右金銭出納帳には右現金が二月分給料九三、二九九円その他に支払われている旨記帳されていること、(2)の入金額一三一、四五〇円は原告会社が同年四月一日振出した金額一二九、六〇〇円の小切手(No.5798)と現金一、八五〇円が入金されたものであるが、右銀行勘定帳、金銭出納帳には右小切手が同日右銀行において現金化され同日原告会社に入金された旨記帳され、さらに右金銭出納帳には右現金が三月分社員給料一一四、九三三円その他に支払われている旨記帳されていること、(3)の入金額九二、〇〇〇円は原告会社が同年四月八日振出した同額の小切手(No.4306)が入金されたものであるが、右銀行勘定帳には同日右小切手が旭タイヤー株式会社の未払金の支払のため提出された旨記帳されていること、(4)の入金額一三三、二一七円は原告会社が同年五月二日振出した同額の小切手(No.4315)が入金されたものであるが、右銀行勘定帳、金銭出納帳には右小切手が同日前記銀行において現金化され同日原告会社に入金された旨記帳され、さらに右金銭出納帳には右現金が従業員七人分の給料一三三、二一七円に支払われている旨記帳されていること、(5)の入金額一二三、二一二円は原告会社が同年六月三日振出した同額の小切手(No.4334)が入金されたものであるが、右銀行勘定帳、金銭出納帳には右小切手が同日右銀行において現金化され同日原告会社に入金された旨記帳され、さらに右金銭出納帳には右現金が社員八人五月分給料一二三、二一二円に支払われている旨記帳されていること、(6)の入金額五、八八〇円は本件銀行予金の予金利子であること、(7)の出金額三二〇、〇〇〇円は、原告会社が大阪トヨダ自動車株式会社から中古ニツサンローリー車を購入するに当り、山田美喜がその代金を原告会社に貸付けるための金三〇〇、〇〇〇円と自己の所用費としての金二〇、〇〇〇円を引出したものであるが、原告会社備え付けの総勘定元帳(甲第六号証)には同年一一月二五日海外文右衛門、周防礼治の両名から各金一五〇、〇〇〇円を借入れ同日右大阪トヨダ自動車株式会社に右金員を支払つた旨記載されていること、(8)の入金額三〇〇、〇〇〇円は原告会社が昭和三一年二月一八日振出した金一五〇、〇〇〇円の小切手二通(No.8167,No.8168)が入金されたものであるが、右銀行勘定帳には同日右小切手一通(No.8167)が海外文右衛門に対する借入金返済のため、右小切手一通(No.8168)が周防礼治に対する借入金返済のためそれぞれ振出された旨記帳され、さらに右総勘定元帳にも同日同様返済した旨記帳されていること、(9)の入金額五、五〇五円は本件銀行予金の予金利子であることをそれぞれ認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の認定事実からすると、小泉保太郎名義の本件銀行予金の入金額は、(1)(2)(3)(4)(5)(8)の原告会社振出の小切手の入金、(2)の現金一、八五〇円の入金、(6)(9)の予金利子の入金からなつているにもかかわらず、(1)(2)(4)(5)の原告会社振出の小切手は日本勧業銀行天六支店において現金化されその現金が原告会社に入金しこれが給料その他に支払われた旨原告会社備え付けの銀行勘定帳、金銭出納帳に記帳され、(3)の原告会社振出の小切手は旭タイヤー株式会社に対しその未払金の支払のため交付された旨原告会社備え付けの銀行勘定帳に記帳され、(3)の原告会社振出の小切手は借入金返済のため海外、周防両名に交付された旨原告会社備え付けの銀行勘定帳、総勘定元帳に記帳されているのであるから、右の原告会社備え付けの各帳簿の記帳内容はすべて虚偽の記帳であつて、その記帳内容に照応する事実は存在しないものというべきであるが、前顕各証拠によれば(1)(2)(4)(5)の給料その他の支払の事実、(3)の旭タイヤー株式会社に対する支払の事実、(7)の出金額中金三〇〇、〇〇〇円を以て大阪トヨダ自動車株式会社に対しニツサンローリー車の購入代金を支払つた事実を認めることができるから、(1)(2)(3)(4)(5)の各支払は原告会社の簿外所得である手持現金でまかなわれたものか、または他から借入金によるものかのいずれかでなければならないところ、前記甲第六号証(総勘定元帳)の借入金欄には右の借入金に照応する借入の事実が全く記帳されておらず、他の原告会社備え付けの帳簿にも右借入の事実が記帳されていないことは弁論の全趣旨により明らかであり、前記甲第二号証(銀行勘定帳)、甲第三号証(金銭出納帳)によれば右各支払の当時原告会社はその支払をなすに十分な予金在高、在庫現金を有していて、他よりの借入の必要なきことが認められる。そして、この事実と前記認定の事実により明らかである小泉保太郎名義の本件銀行予金口座が架空名義である事実、右予金口座が原告会社設立の前日一たん解約されその直後再び開設せられている事実、右予金の内容は予金利息及び現金一、八五〇円の入金を除いてはすべて原告会社振出の小切手が入金されている事実、右予金が原告会社の大阪トヨダ自動車株式会社よりのニツサンローリー車購入代金に使用されている事実、原告会社備え付けの各帳簿に虚偽の記帳がなされている事実及び被告の協議官である木下尚敏の調査の際の経過事情等を綜合すると、原告会社は前記(1)(2)(3)(4)(5)の各支払を当時の収益による簿外所得である手持現金でまかない、その支払に見合うべく小切手を振出し、これを小泉保太郎名義の本件銀行予金口座に入金しながら、原告会社備え付けの銀行勘定帳、金銭出納帳に前記のごとき虚偽の記帳をなし、(7)の出金額中金三〇〇、〇〇〇円を以て大阪トヨダ自動車株式会社に対しニツサンローリー車購入代金を支払いながら、本件銀行予金を秘匿するため原告会社備え付けの総勘定元帳の借入金欄に海外、周防両名から各金一五〇、〇〇〇円を借入れた旨虚偽の記帳をなし、これに対する返済の名目でこれに見合う小切手二通を振出し、これを本件銀行予金口座に(6)の入金額として入金したものであつて、小泉保太郎名義の本件銀行予金の第一期分における予金債権一八六、五九八円、第二明分における予金債権四七一、二六四円は、それぞれ原告会社の第一期分、第二期分の簿外所得を隠ぺい又は仮装したものと認定するを相当とする。

もつとも、原告は原告会社の取引銀行が会社事務所から遠隔の地にあるため急速に現金を引出すことが不可能であつたので、従業員の給料の支払の必要が生じたときなとには、訴外山田美喜を通じて同人の保管する山田利一所有の現金を以て原告会社振出の小切手を現金化し、山田美喜はその際交換により取得した右小切手を小泉保太郎名義の本件銀行予金に入金したもので、右予金は山田利一個人の資産であるから、原告会社の簿外予金ではない旨主張し、証人山田利一(第一回、第二回)、同山田美喜の各証言は概ね右原告の主張に副つているが、右の事実が真実であるとするならばその経過をありのままに記帳すべきであり、また記帳しえた筈であるのに、前記のような帳簿上の処理をしていること、前記甲第二号証、第三号証、証人山田利一の証言(第二回)により真正に成立したと認める甲第八号証乃至第一〇号証、証人山田利一の証言(第二回)によれば、訴外山田利一は原告会社設立当時個人企業時代の車輛を原告会社に有償譲渡してその代金のうち金一、一八〇、〇〇〇円を所有し、また、個人企業時代の運賃を回収したもののうち約一、〇〇〇、〇〇〇円を所有していて資金的にかなり余裕を有していたことが認められるが、証人山田利一の証言(第二回)によれば山田利一は右金員を妻山田美喜に手交して保管せしめたと供述しているに対し、証人山田美喜の証言によれば山田美喜は原告会社設立当時は約三一、二万円の現金を保有していたのみと述べており、原告代理人は右車輛代金中金一、〇〇〇、〇〇〇円を日本勧業銀行天六支店に定期予金として予入れ、個人企業時代の回収運賃金一、〇八二、八四六円の大部分を住友銀行天六支店に普通予金として予入れた旨主張し、右の各供述、主張が錯誤によるものとしてもその間余りに大きな矛盾が存すること、前記甲第二号証(銀行勘定帳)、甲第三号証(金銭出納帳)によれば前記(1)(2)(3)(4)(5)の各支払の当時原告会社はその支払をなすに十分な予金在高、在庫現金を有していて、原告会社振出の小切手を訴外山田美喜に現金化してもらう必要が認められないこと、原告会社の取引銀行が多少遠隔地にあるとしても給料の支払は定期的なものであつて予め準備しうるものであること等を彼此検討すると、未だ原告の主張に副つた前記各証拠は当裁判所の心証をうるまでに至らないし、他に原告の主張を認めて前記認定を覆すに足る証拠はない。

そうすると、大阪西税務署長が小泉保太郎名義の本件銀行予金を隠ぺい仮装した原告会社の簿外所得と認定し、原告会社の第一期分の申告所得金額一〇四、八〇〇円に本件銀行予金の第一期分における予金債権一八六、五九八円を加算して原告会社の第一期分の所得金額を金二九一、四〇〇円、法人税額を金一二二、三八〇円、重加算税額を金三九、〇〇〇円と更正決定し、原告会社の第二期分の申告所得金額四七一、三〇〇円に本件銀行予金の第二期分における予金債権四七一、一六四円を加算し、経費処理した役員賞与金七二、〇〇〇円、滅価償却超過金三四、二六〇円を否認し、反対に損失金として法人税額一、四五〇円を認めて減算して原告会社の第二期分の所得金額を金一、〇四七、四〇〇円、法人税額を金三九三、九六〇円、重加算税額を金九四、〇〇〇円と更正決定したのは適法であつて、被告がこれを相当と認容して原告会社の各審査請求を棄却した本件各審査決定は適法であるというべきである。

よつて、原告の本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野田常太郎 阪井いく朗 池尾隆良)

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